「とてもよく弾けた。
さて今度は違った弾き方をしてみよう、できるわけだから。」
このように言ったのは、21世紀のヴァイオリン界の帝王イツァーク・パールマンで、私はまだ音楽学校にいた頃に幾度となくこれを思い出すに至ることがありました。
幸いにも、私が過去に師事した指導者はみな、次のステップに進むために必要な一定の枠組みを越えた思考をする意識を植え付けさせるタイプで、上記の言葉を教えてくれた私の最後の師もその一人でした。
私たちのような音楽家が全く同じ条件からまた何かを創り出すとき、どういう訳か毎回きまって幾分より良い違ったふうにで出来上がるんですね。
それは何故か?音楽には絶えず変化する無限の可能性が秘められていて、それはまさに私たちがそうあってほしいと望むところなのです。
音楽は流れているその瞬間に起こる様々な感じ方・感情によってあまりに大きく左右されるので、双方のうちどちらがより優れている・劣っているなどと理性的に判断することはできません。
ケーキを作るのとよく似ています。
毎回同じものを作ることももちろんできるでしょうが、牛乳・砂糖・卵などの量を変えて調節してみたり、焼き加減を変えてみたり、一番上にいつもと違う果物を載せてみたり、色んなことを試すことができるのではないでしょうか?
この辺りをどうするかは、当然あなた次第です。 😊
「良し悪し」ではなく、「違い」をつくる
私や私のような感覚を共有する人たちの世界では皆この概念をよく知っています。
私の過去の師たちも生徒たちにこのことを理解させるようにしていました。
私の指導もこれが基礎になっています。
彼らは皆、近頃やや停滞感のある世の中の勉強の仕方やプロセスに異議を唱え、改革する精神をもっていました。
私たちにとって共通の暗号のようなものです。それが私たちの言葉なのです。
しかし周り全体を見渡せば、このような考えに沿って行動する人はどれくらいいるでしょうか?
そしてなお、たとえ一つのアイデア・方法で狙い通りにうまく表現できたときでも、また異なるアイデアで違ったものに創りかることができる人は、どれくらいいるでしょうか?
ほぼ皆無
多くの人の関心の的は、「誰が一番大きな音を出すか」や、「誰が一番良い楽器を持っているか」や、「誰が一番派手な衣装を着るか」といった表面的なことで、それを中心に永遠と自分と他人を比較し競争するのです。
それでも音楽そのものはとても退屈極まりありません。
誰が演奏しても変わり映えがせず同じことの繰り返しに終始するチャイコフスキーの協奏曲は、私が特に嫌気がさすものになっています。
くだらない!
要は、比較や競争ではなく、
対比すること です。
私が同じ楽曲に2度目や100度目、592836度目に取り組む時、何をどうして、どんな風に考えるか?
私自身の捉え方はこうです:
「うむ…この曲はなかなか興味深い。音楽は一体何を表しているか?明示されてないことは何か?何通りの解釈が可能だろうか?どのようにして、原型にある音楽の真の意図を消してしまうことなく、独自の奇抜な芸術にさせるか?」
そうして、表現するためのあらゆる手段を考えていくわけです。
最も素晴らしいのは、どこか一箇所でも変えたりすると、全体のバランスが変化してさらなる変化を生み出すところです。
独特・ユニークであれ!
しかしながら、今の世の中はこのような考え方に何かしら抵抗があり消極的なのが現実です。
ソーシャルメディアや主流となっている教育体系が支配する時世とあって大部分の家庭が、皆が同じ服装をし、同じ街に住み、同じ学校に通い、皆と同じ考え方をし、皆と同じ「お行儀善い子」になることが当然と考えるような環境になってしまっているのが一因です。
だいたい95%の学校や大学が、何百台もの均一で同一な自動車を生産する工場のように、全てが一律で何もかもが同じに揃った学生を世の中に送り出しているでしょう。(知能と才能にあふれた一部の若者が学校生活を経て失望するこの現状は残念なものです)
そのような環境的な部分が影響して、多くが違いや変化というものをマイナスに捉えています。そしてそれを恐れています。
あなたに今この現状に果敢に対抗してほしいと思います。
違ったことをしたいと思うこと。
相違性を大事にすること。
自分の感受性を素直に認め、独自の手法で世界を驚かせること。
毎年訪れるこの時期 ― 世の中の多くが新しい約束事や抱負を語ったり、『やる事リスト』をつくったり、新しい流行を追ったり。
それらは全て、風潮に流されて同じ土俵で際限なく競争をすることに繋がるのみです。数字や表面的なことに囚われて、本当に大切なことを見失っています。
音楽界も近年は方向が怪しくなってきてもいます。大切なのは比較したりどちらが優れているか?ということではなく、オリジナリティ、独創性が人生や人の心に与える豊かさなのです。
ということで、2019年をうまくやっていきましょう!😊
松川暉